東京地裁判決文 解説③
5月27日の東京地裁でのZ社(原告)から当社PS社及びM社長(被告)に対する著作権侵害差止等請求事件の判決について、当社ブログ欄へも多くのお問合せをいただいております。内容を詳しく教えてほしい、判決文全文を見せてほしいなどのご依頼に当社では順次対応しております。
Z社裁判専用ブログ欄では、判決の内容を分かりやすく、公表していきたいと思います。(原文のままではありませんが、裁判に特有のことばをわかりやすい言葉に置き換えておりますのでご了承ください。)
今回は、争点3と争点4と争点5に対して公表していきます。
【争点3】
争点3 PS社とM社長は、Z社の著作権を侵害したといえるのか?(著作権侵害行為)
■Z社の主張■
PS社は、1998年の創業時から、Z社住宅地図を購入し切り貼りして、ポスティング用地図を作成し、配布員へコピーして渡していた。そのコピー枚数は、配布エリア数、1つのエリアを作るために平均7枚(1枚は、見開きの片側部分のこと)のZ社住宅地図原図が必要、営業期間などの指標から算出できる。
会社設立前の2年間では、5万3802枚をコピーしたと想定できる。また、2000年のPS社設立以降2019年までにPS社は、283万6022枚をコピーしていたと思われる。これらは、Z社の複製権を侵害している。
PS社は、フランチャイズ先等にも同様にポスティング用地図を作成して納めていたので、Z社の譲渡権及び貸与権を侵害した。
また、PS社ウエブページにて、Z社住宅地図の原図の一部の画像データを掲載したことにより、Z社の公衆送信権も侵害した。
■PS社の主張■
ポスティング用地図は、まず、配布エリアごとにZ社の住宅地図とは縮尺および回転角度が配布エリアごとに異なっている。そして、ポスティング用地図の見開きの端から余裕のある内側に配布栄らの実際の境界より少し外側に手書きでエリア枠線がひかれている。さらに、配布する広告物や配布期間を記入する枠である付票が配布エリア外に配置されている。
ポスティング用地図は、配布エリアごとに縮小・回転が定められるから、Z社住宅地図とは1枚が表現する範囲が異なる。そして配布員の報告により、新築物件や新しい道路などの情報が書き込まれている。
したがって、ポスティング用地図は、Z社住宅地図の原図とは異なる思想に基づき作成されたものであり、Z社の表現の個性(表現上の本質的な同一性)は埋没されている。
また、家形枠の表現は、都市計画図とZ社住宅地図を比べると、約84.7%は同一であり、Z社において新たに表現された家形枠は1%にも満たない。Z社住宅地図とPS社作成のポスティング用地図の一致点は、ありふれた表現のものである。
PS社のフランチャイズ先等のポスティング用地図の作成は、フランチャイズ先が購入したZ社住宅地図を使用して、フランチャイズ先からの依頼により手足としてコピーしたにすぎない。
PS社ウェブサイトに掲載されていたというZ社住宅地図は、4枚でありそれも元のZ社住宅地図の1ページの3%の面積にすぎない。
Z社住宅地図の複製物を譲渡又は貸与により公衆に提供したとは言えない。
※コピー枚数の計算方法についての見解。
PS社の住宅地図のコピー枚数は、20数年の歴史において、正確に出すことは不可能である。推測の域をでないが、売上規模、配布エリア、などを基準にするのが適当である。また、1枚のポスティング用地図を作成するのに必要なZ社住宅地図原図は、平均すると約3.5枚(区割り図単位、見開き左右で1枚)である。これらを勘案すると、1998年から、2018年(平成30年)4月までのコピー総枚数は多くても40万5885枚である。
なお、2018年(平成30)年5月以降は、Z社住宅地図を一切購入しておらず、2019年(令和元年)9月以降はZ社住宅地図を下図にしたポスティング用地図も一切コピーしていない。
■裁判所の判断■
M社長が個人でポスティング業を行っていたのは、1998年~2000年である。Z社が著作権侵害を主張しているのは、2002年(平成14年)以降、デジタルデータ化してから発行している住宅地図のみである。したがって、会社設立前のM社長個人への不法行為責任は問題にならない。
争点1において、2002年(平成14年)以降、デジタルデータ化後に順次発行されたZ社住宅地図には、地図の著作物と認めた。したがって、PS社がそれ以降に購入した地図に係るものは、Z社の複製権を侵害していると認めることができる。
ポスティング用地図についても、Z社の住宅地図を縮小して複写し、つなぎ合わせたものである以上、両者の創作的表現が同一であることは明らかであって、付票やエリア枠線があるからといってZ社の住宅地図の個性が見分けられないと評価することはできないから、その複写は著作権の侵害となる。
PS社のフランチャイジー等のエリアに対するポスティング用地図の制作も、複製権・譲渡権の侵害と認められる。PS社の主張はいずれも採用することができない。
PS社が、Z社の貸与権を侵害したとは認められない。
PS社のWebサイトへの記事掲載について、Z社の公衆送信権を侵害したものと認められる。
※コピー枚数の計算方法についての裁判所の判断
・侵害の対象期間の始期は、デジタルデータ化した後に発行されたZ社住宅地図に限られる。長野県、山梨県では、2002年(平成14年)以降である。
・侵害の対象期間の終期は、PS社の閉店の店舗は閉店時、その他の店舗は証拠保全が行われた2019年(令和元年)7月と認める。
・PS社は、月に1度ポスティング用地図を配布員にコピーして渡していたと認められる。
・1枚のポスティング用地図を作成するためには、Z社住宅地図7枚分をコピーする必要があると認める。
・上記より、侵害の枚数は、店舗ごとに
配布エリア数✕貼り合わせ枚数(7枚)✕侵害期間の月数に、ポスティング用地図の作成(配布エリア数✕貼り合わせ枚数)を加算した小計を求め、店舗ごとの小計を加算して求めた。
・その結果、著作権侵害となる期間に、PS社がZ社住宅地図をコピーした枚数は、96万9801ページと認められる。
【争点4】
争点4 PS社とM社長は、著作物と分かっていてZ社の住宅地図をコピーしていたのか?故意や過失はあったのかないのか?
■Z社の主張■
PS社は、長年にわたりZ社住宅地図を無断でコピーしてきたことを認めているので、PS社およびM社長に、故意又は過失が認められることは明らかである。
■PS社の主張■
Z社は、PS社社内での住宅地図の利用方法を知ったうえで、販売していた。また、Z社以外の3社の住宅地図制作・販売会社からは、追加料金を発生せずにポスティング会社が使う利用方法を許諾している。
また、2018年(平成30年)4月に警告を受けて初めて、Z社がポスティング業界で行なわれている利用方法を認めないことを知り、合理的期間内である2019年(令和元年)9月までに、Z社の住宅地図の利用を一切中止した。したがって、Z社の著作権を侵害したことには故意も過失もない。
■裁判所の判断■
遅くとも平成10年4月以降には、Z社の住宅地図の末尾には、「本商品は当社の著作物であり、著作権法により保護されています」「法律で特に定める場合を除き、当社の許諾なく本商品又は本商品に含まれるデータの全部若しくは一部を複製、転記、抽出、その他の利用をした場合、著作権法違反や不法行為となり、刑事上や民事上の責任を追及されることがあります。」などと記載されていることから、PS社がZ社の住宅地図の複製権を侵害したことに、故意があったと認めるのが相当である。
他方、M社長に対しては、故意又は過失について検討する必要はない。
【争点5】
争点5 M社長に、Z社の住宅地図をコピーしてはダメよと社員に言うべき任務があったかどうか?(任務懈怠行為=にんむけたいこうい)
■Z社の主張■
PS社は、取締役2名、従業員39名ほどの小規模企業のため、M社長が従業員に指示することにより、Z社住宅地図を下図としてコピーしポスティング用地図を作成したり、第三者に販売するなどの法令違反行為を行ったものだから、M社長には悪意又は重大な過失があったというべきである。
■PS社の主張■
Z社は、2018年(平成30年)4月に至るまで、PS社内での住宅地図の利用方法を認識していたにも関わらず、複製料を請求していなかったから、M社長はポスティング会社での利用方法が違法であるとは認識し得なかった。また、同月に警告文書を受領した後、合理的な期間内にZ社住宅地図の利用を停止した。
したがって、M社長には、職務を行うについて、悪意又は重大な過失があったとは言えない。
■裁判所の判断■
PS社の規模からすると、Z社の著作権を侵害したことについて、M社長は阻止するべき任務を負っていたにも関わらず、これを悪意により懈怠したと認めるのが相当である。
PS社の主張はいずれもM社長の任務懈怠責任を免れることにはならない。
※現在、裁判所のホームページにて、判決文全文を確認することができるようになりました。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=91250
次回は、争点6以降を解説していきます。
当社では引き続き、Z社裁判への問い合わせ窓口を設けています。お気軽にお問合せください。
0120-881-986(平日10時~17時)
※(注意)当ブログでは、(有)ペーパー・シャワーズをPS社、村松社長をMまたはM社長と表記します。また、原告会社は住宅地図制作・販売会社では誰もが知る東京証券取引所プライム市場の上場企業ではありますが、ここではZ社と表記いたします。