Z社裁判の判決文 解説②(争点1と争点2)

2024

06.20

東京地裁判決文 解説②

 

5月27日の東京地裁でのZ社(原告)から当社PS社及びM社長(被告)に対する著作権侵害差止等請求事件の判決について、当社ブログ欄へも多くのお問合せをいただいております。内容を詳しく教えてほしい、判決文全文を見せてほしいなどのご依頼に当社では順次対応しております。

そこで、当社でもZ社裁判専用ブログ欄を開設しました。まずは、判決の内容を分かりやすく、公表していきたいと思います。(原文のままではありませんが、裁判に特有のことばをわかりやすい言葉に置き換えておりますのでご了承ください。)

 

今回は、争点1と争点2に対して公表していきます。

 

 

【解説 争点1】

争点1 そもそも住宅地図は、著作権法で守られるべき著作物なのか?(住宅地図の著作物性)

 

 

■Z社の主張■

 

Z社の住宅地図は、多くの調査員の現地調査によって得た情報を取捨選択し、いかに正確に配列・表現するかという点に力点をおいて、統一的に編集されている。

特に、家形枠は、周辺の建物との位置関係を見ながら、目測や歩測によりおおまかな位置や長さを決めることになるので、誰が調査しても同じになることもなく、調査員の個性が表れる。家計枠は、線の太さ及び長さ、居住者名のフォント等の多くの選択肢の中から住宅地図作成会社ごとにバリエーションがある。

制作にあたり都市計画基本図を参照することはあるが、住宅地図とは見た目の印象が全く異なる地図となっている。

特に、2000年ころにデジタルデータ化した後の住宅地図は、それまでとは異なる新たな表現方法になっている。したがって、Z社の住宅地図は、著作権法で守られるべき著作物である。

 

■PS社の主張■

 

一般的に地図というのは、現実を正確に表すほど著作物性が狭くなる。特に住宅地図はほかの地図に比べて著作物性はさらに制限されるものである。

Z社の住宅地図は、江戸時代の古地図を参考に作成を開始しており、ほかの住宅地図制作会社もなんらかの既存の地図を基礎としてつくられている。Z社自身、都市計画図を下図として(依拠して)、作成したことを認めている。

Z社の住宅地図は機械的に作成されており、正確性・精密性を主張されているところからして、創造性を発揮する余地はほとんどない。国土地理院も、都市計画基本図は、素材の取捨選択、配列、表現、レイアウトに創作性を発揮する余地が少なく、著作物性が認められる可能性は低いとの見解を示している。

過去に作成された住宅地図にも家形枠が記載されていることから、家形枠があるからといってZ社独自の創造性とは言えない。実際に無作為に選んだ地域で、Z社の住宅地図と都市計画基本図を比べてみたところ、家形枠の記載のうち、84.7%が都市計画基本図に由来し、新たに記載された家形枠は1%に満たなかった。

Z社は、住宅地図のデジタルデータ化に伴い、平成17年時点で、地図作成業務のうち少なくとも6割を海外子会社で業務的に作成しており、地図に独自性がないことを裏付けている。

よって、Z社の住宅地図には創作性が認められないから、地図の著作物ではない。

 

■裁判所の判断■                   

 

(1)一般的には、地図は個性的表現の余地が少なく、文学・音楽・造形美術上の著作に比べて著作権による保護を受ける範囲は少ないのが通例である。地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものである。

(2)Z社の住宅地図は、遅くとも2006年(平成18年)3月までにデジタルデータ化(本件改訂という)が行われたと認めるのが相当である。

したがって、著作権侵害の範囲は、本件改訂以降発行されたZ社住宅地図とする。Z社も本件改訂以前については、著作権を主張していないので、著作物性については検討をする必要はない。

(3)Z社の住宅地図は、見開きの左右2頁を用いて1枚の地図が収められ、地図の周囲にAからJ、1から5など目盛りが振られていて探しやすく、実線、破線が使い分けられ、信号機やバス停などイラストで記載されている。道路標識を模したマークや山間部の等高線、居住者名や建物名など記載されている。

(4)本件改訂以降のZ社住宅地図は、長年にわたり住宅地図を作成販売してきたZ社において、住宅地図に必要と考える情報を上記のように取捨選択し、より見やすいと考える方法に表示されたと評価することができるから、都市計画図等に新たな創作的表現が付加されたものとして、地図の著作物と認めるのが相当である。

(5)住宅地図において家形枠を記載することがよくあるとしても、Z社の住宅地図の家形枠の具体的表現がありふれていることを認めるに足りる証拠はないから、著作物性を否定することはできない。その他、PS社の主張は、いずれもZ社の著作物性を否定するほどの論理ではないため、いずれも採用することができない。

 

 

 

 

 

 

【解説 争点2】

争点2 Z社の住宅地図の著作者はだれなのか?(著作者)

 

■Z社の主張■

 

Z社の住宅地図は、Z社の発意(意思)によって、Z社と雇用契約又は業務委託契約を締結した者が、調査員としてZ社の指揮監督の下に現地調査を行い、原稿を作成し、労務提供の対価を受領しているので、職務として地図を作成している。また、Z社住宅地図には、著作者名としてZ社の会社名が記載されている。そのため著作者は、Z社(法人)である。

 

■PS社の主張■

 

Z社の地図記載方法は、遅くとも明治26年から昭和59年までの間に、Z社以外の他社により示されているものであり、その表現に実質的な変更がないので、新たな創作への発意(意思)は認められない。

Z社が調査員と雇用契約を結んでいた場合であっても、その契約や勤務規則の内容によっては、Z社の法人著作とならない可能性もある。また、Z社の調査業務委託契約書によれば、契約書の中に業務遂行過程に関する規定がなく、Z社は指揮監督する立場にあることもなく、成果物の納入の規定があるのみである。外部の請負業者から著作権を譲り受ける規定もない。

もし、家形枠の記載などにおいて調査員の個性が表れているとすると、著作権者は調査員個人になるので調査員とZ社の間に著作権譲渡に関する契約が締結されるべきである。このことは、デジタルデータ化される前のZ社住宅地図においては、住宅地図に調査員の名前が記載されていた事実からも裏付けられる。

Z社住宅地図の表紙には、作成者又は著作者としてZ社会社名は記載されておらず、平成20年以降国立国会図書館等のZ社住宅地図に関わる書誌にも、出版社欄にZ社社名があるのみで、著作者欄は存在しないか空欄になっている。Z社著作の名義の下に、各住宅地図を公表していない。したがって、著作権法15条1項の要件を欠くので、Z社は著作者であるとは認められない。

 

■裁判所の判断■                   

 

Z社は、現地調査の業務を外部委託する場合に、注意事項をまとめた調査マニュアルを交付し、受託者に支給する制服を着用させ、社員証又は調査員証の携帯を義務付けている。雇用契約の従業員に現地調査を行わせることがあるが、同様の指示をしているので、調査業務委託基本契約において、受託者に対する指揮監督に関する規定がなかったとしても、受託者は、Z社の指揮監督の下、職務を遂行していたと認められる。

また、Z社住宅地図の末尾及びパッケージには、Z社会社名と「本商品は、当社の著作物であり、著作権法により保護されています。」と記載されている。このことは、自己の著作の名義の下に、住宅地図を公表しており、著作者はZ社と認められる。PS社の主張は、いずれの論点もこの認定を覆すに足りる証拠とはなりえない。

 

 

 


※判決文全文を原文で欲しいという方は、以下へお気軽にお申し出ください。6月20日現在、裁判所のホームページでは当判決文を検索しても表示されないため、当社から公表する次第です。(事件番号 令和元年(ワ)第26336号)

申込先 Z社裁判問い合わせ窓口

0120-881-986(平日10時~17時)

 

※(注意)当ブログでは、(有)ペーパー・シャワーズをPS社、村松社長をMまたはM社長と表記します。また、原告会社は住宅地図制作・販売会社では誰もが知る東京証券取引所プライム市場の上場企業ではありますが、ここではZ社と表記いたします。


 

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