長野県の飯田・下伊那地方の特産に干し柿があります。昔はどこの農家の軒先にも秋になると干し柿がつるされていて田舎の風情を醸し出していました。しかし、いまは農協などの指導もあり、品質管理が徹底されたため、軒先ではなく、農業用ハウスの中に吊るされるために、田舎の風情というものはなくなりました。
(昔の田舎の風情) (農家ごとに生産されていた市田柿)
ここ数年の間に、飯田・下伊那地方の干し柿は、「市田柿」というブランドで全国区ブランドになりました。下伊那郡高森町市田という地名からとられました。
JR飯田線には市田駅があります。
いたるところに、市田柿発祥の里といった看板、ポスターがあり、町をあげて市田柿をアピールしています。
高級感もあり、贈答に大変喜ばれました。市田柿を全国区ブランドにしたのは、地元農協や園協の努力ももちろんありましたが、ある特定の会社の活躍も大きかったのです。その会社は、かぶちゃん農園(ケフィアグループ)という会社です。
全国紙に市田柿の通販の全面広告をうったり、柿の木のオーナー制度を使った宣伝なども大々的に行っていました。地元には、大きな干し柿工場をつくり、レストランや観光物産施設を経営したりと雇用にもたいへんな貢献をしていました。
ところが、突如今年8月、親会社の経営破綻にともない、かぶちゃん農園も破産という事態に陥りました。連日の報道は、地域社会への影響が広がっていることを示していました。特に、高齢化を迎えた柿生産農家は、かぶちゃんに頼っていたところも多く、今後は農地の荒廃が進むのではないかと危惧されています。
(最近の新聞記事より)
さて、先日、福島県郡山市へ出張で行ってきました。帰り際、郡山駅でお土産を買おうと思って色々見ていたのですが、あるポスターにびっくりしてしまいました。
福島県には、同様に干し柿として有名なブランド「あんぽ柿」があります。その高級贈答用あんぽ柿のポスターには、「長野県産市田柿使用」と書かれているではありませんか?なぜ、福島で長野県産市田柿使用と謳わなければならないのか?・・・・
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市田柿の産地に住む人間としては、うれしいやら、悲しいやら、複雑な思いを感じました。ここは、心を入れ替えて、消費することに意味があると思い、1個500円近くするあんぽ柿を買い求めてきました。
パッケージにも長野県産市田柿使用の文字が書かれています。
甘~いクリームを包み込んだ干し柿の上品なお菓子に仕上がっていました。それにしても、手間暇かけたお菓子ですね。
私自身、柿農家で育ち、大学に行けたのも、両親が市田柿を出荷していたからです。つまり、市田柿のお陰で、大学に行かせてもらえたともいえます。それだけに、思い入れも深くなってしまいます。
「市田柿」は今後どんな運命をたどっていくのだろうか?市田柿を全国ブランドに押し上げるのに、大活躍した企業が破産し、遠く福島県で郷土のあんぽ柿に市田柿が使用されるまでになった縁を感じる平成最後の秋となりました。